製造業の新規開発・0→1推進で本当に必要なこと【25年PMが語る社内承認の突破法】
「製造業で0→1をやっている人の話が聞きたい。ネットに全然ない。」
転職支援の面談でも、製造業PMのコミュニティでも、この言葉を何度聞いたかわからない。
確かにそうだ。ITスタートアップの0→1体験記はあふれているが、製造業での新規開発リアルを語る場所は驚くほど少ない。
この記事では、私が上場企業で新規事業・新規開発を推進してきた25年の経験から、「製造業での0→1推進で本当に必要なこと」を正直に書いていく。スキルの話じゃない。覚悟と判断と、人間の話だ。
真っ暗な防波堤から、海に飛び込む覚悟。
「真っ暗な夜の防波堤から、海に飛び込むようなものだ」
以前在籍していた上場企業で、開発を管掌していた役員にそう言われた。
当時の私は30代後半。新規事業を立ち上げようと社内で動き始めたばかりで、上司にも同僚にも「それは難しい」「前例がない」と壁を張られていた。その役員は、私が何度も根拠を求められ、答えに詰まりながらも動き続けているのを見ていたのだと思う。
「孤独感と覚悟を持って踏み出せ。飛び込んだ先に何があるかは、飛んでみないとわからない」
あの言葉が、私を動かした。
今回は、その体験を軸に「製造業での0→1推進で本当に必要だったこと」を書いていく。
0→1は、暗闇の中を歩くことだ。
新規開発とは、文字通り「前例がない」ことをやる仕事だ。
地図がない。正解がない。やってみるまで、誰にもわからない。
製品開発の経験が長い人間でも、新規領域に踏み込んだ瞬間から、それまでの経験値が半分以下になる感覚がある。「こうすればうまくいく」という確信が持てない状態で、それでも前に進まなければならない。
これが0→1の現実だ。
既存業務との本質的な違い
既存製品の改善や量産対応には「先例」がある。過去の成功パターンが参照できる。ところが新規開発に先例はない。誰も通っていない道を、地図なしで歩く。
この違いを最初に理解しておかないと、途中で消耗する。「なぜこんなに進まないんだ」ではなく、「これが0→1の正常な状態だ」と腹を括れるかどうか。それが最初の分岐点だ。
0→1で最も難しいのは、社内承認だった。
0→1プロジェクトで本当にしんどかったのは、技術的な困難ではなかった。
リスクと「やり切る」気合いを、役員や株主に理解してもらうことだった。
当時の私が直面したのは、こういう状況だった。
- 新規事業への投資判断を求められる取締役会
- 「成功確率は?」「根拠は?」と繰り返す役員
- 社内調整が取れないまま進めようとする現場の現実
数字だけで語ろうとすると、必ず詰められる。「根拠は?」「成功確率は?」「失敗したらどうする?」
でも新規事業に、完璧な根拠なんてない。それが新規事業というものだ。根拠を求められるたびに「わかりません」と答えるしかない場面が来る。そこで逃げると、プロジェクトは終わる。
鷹杉の視点:「完璧な根拠を出せ」は罠だ
根拠を求める人が本当に欲しいのは、「数字」ではなく「この人は責任を取る覚悟があるか」の確認だ。私はそれに気づいてから、承認が取れるようになった。
承認を取るために有効だった方法。
そこで私がやったのは、ロジックで押し切ることではなかった。
① 熱量を先に伝える
「この事業が必要な理由」「自分がやり切るという覚悟」「失敗した時にどう責任を取るか」。
これを、データではなく言葉と熱量で伝えた。
数字が弱くても、熱量は伝わる。「この人はやり切る人間だ」という印象を持ってもらえれば、細かい数字より強い説得力になる。これは製造業の役員相手に特に効く。現場を長く経験してきた人間は、根拠の完璧さより「こいつは逃げない」という直感を信じる。
② スモールスタートに設計し直す
大事なのは、完璧な承認を求めないことだ。
「全部承認してもらう」より「動き始める許可をもらう」という発想に切り替える。
予算を全額もらえなくても、5分の1でも動ける計画に変える。期間を短縮して、まず検証だけでも進める。私が実際にやったのは、こういう切り口だった。
- 本来6ヶ月の開発を「まず2ヶ月で技術検証だけやらせてほしい」に圧縮する
- 投資額を段階的に設定し、撤退基準を先に提示する
- 「失敗したら止める」という基準を明示することで、リスクを見えやすくする
これで突破口が見えてくる。完璧な計画より、動き始める設計の方が強い。
役員が教えてくれた「孤独と覚悟の共有」という視点。
あの役員は、防波堤の話をした後にこうも言っていた。
「飛び込む孤独感と覚悟は、一人で抱えるものじゃない。メンバーと共有するものだ」
0→1プロジェクトは、リーダー一人の熱量だけでは続かない。チームが同じ覚悟を持って進むことで、初めて暗闇の中でも足が動く。
この言葉の意味を、私はプロジェクトを進めながら少しずつ理解していった。リーダーが「俺についてこい」と引っ張るより、「一緒に飛び込もう」と巻き込む方が、チームは強くなる。
孤独を抱えたまま突き進もうとすると、必ずどこかで折れる。最初から「この暗闇を一緒に歩く仲間」を作っておくことが、0→1プロジェクトのリスク管理の本質だと今は思っている。
新規開発経験が転職で「圧倒的に」評価される理由。
製造業のキャリアで「新規開発・新規事業の推進経験がある」という人は、思った以上に少ない。
多くの人は、既存製品の改善や量産対応を担当している。それも重要な仕事だ。でも「0から何かを作り上げた経験」は、転職市場では全く別の価値を持つ。
なぜ0→1経験は評価されるのか。
理由は単純だ。暗闇の中で判断し続けた経験は、どんな状況でも応用できるからだ。
新しい職場、新しいチーム、新しい課題。転職先では必ず「前例のない状況」が来る。その時に、過去の0→1経験が土台になる。
面接官はそこを見ている。「この人は、地図のない場所でも動ける人か」を確認しようとしている。
完璧な計画より、踏み出す覚悟。
0→1を始める前に、完璧な計画を作ろうとしなくていい。
大事なのは、暗闇に向かって踏み出す覚悟だ。
防波堤の端に立って、真っ暗な海を見つめる。その孤独感と向き合えた人間だけが、0→1を経験できる。
そしてその経験は、キャリアの中で一生消えない武器になる。
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筆者紹介
鷹杉 タツヤ
製造業でのキャリアは25年以上。技術派遣の会社から一部上場企業/中小企業で設計・開発・新規事業開発など、開発畑で様々な収穫物を得てきたプロジェクトマネージャー。開発工程の上流から下流まで、さらには企画・マーケティングや営業販売まで、メーカーでのバリューチェーンはほぼ全てを経験している。