上司を説得する

製造業の新規開発・0→1推進で本当に必要なこと【25年PMが語る社内承認の突破法】

製造業の新規開発・0→1推進で本当に必要なこと【25年PMが語る社内承認の突破法】

「製造業で0→1をやっている人の話が聞きたい。ネットに全然ない。」

転職支援の面談でも、製造業PMのコミュニティでも、この言葉を何度聞いたかわからない。

確かにそうだ。ITスタートアップの0→1体験記はあふれているが、製造業での新規開発リアルを語る場所は驚くほど少ない。

この記事では、私が上場企業で新規事業・新規開発を推進してきた25年の経験から、「製造業での0→1推進で本当に必要なこと」を正直に書いていく。スキルの話じゃない。覚悟と判断と、人間の話だ。

この記事でわかること
 1、0→1が既存業務と根本的に違う理由
 2、社内承認・役員説得で実際に効いた方法
 3、熱量をロジックより先に伝えるべき理由
 4、スモールスタートで突破口を開く設計法
 5、0→1経験が転職市場でなぜ圧倒的に評価されるか

真っ暗な防波堤から、海に飛び込む覚悟。

「真っ暗な夜の防波堤から、海に飛び込むようなものだ」

以前在籍していた上場企業で、開発を管掌していた役員にそう言われた。

当時の私は30代後半。新規事業を立ち上げようと社内で動き始めたばかりで、上司にも同僚にも「それは難しい」「前例がない」と壁を張られていた。その役員は、私が何度も根拠を求められ、答えに詰まりながらも動き続けているのを見ていたのだと思う。

「孤独感と覚悟を持って踏み出せ。飛び込んだ先に何があるかは、飛んでみないとわからない」

あの言葉が、私を動かした。

今回は、その体験を軸に「製造業での0→1推進で本当に必要だったこと」を書いていく。

0→1は、暗闇の中を歩くことだ。

新規開発とは、文字通り「前例がない」ことをやる仕事だ。

地図がない。正解がない。やってみるまで、誰にもわからない。

製品開発の経験が長い人間でも、新規領域に踏み込んだ瞬間から、それまでの経験値が半分以下になる感覚がある。「こうすればうまくいく」という確信が持てない状態で、それでも前に進まなければならない。

これが0→1の現実だ。

既存業務との本質的な違い

既存製品の改善や量産対応には「先例」がある。過去の成功パターンが参照できる。ところが新規開発に先例はない。誰も通っていない道を、地図なしで歩く。

この違いを最初に理解しておかないと、途中で消耗する。「なぜこんなに進まないんだ」ではなく、「これが0→1の正常な状態だ」と腹を括れるかどうか。それが最初の分岐点だ。

0→1で最も難しいのは、社内承認だった。

0→1プロジェクトで本当にしんどかったのは、技術的な困難ではなかった。

リスクと「やり切る」気合いを、役員や株主に理解してもらうことだった。

当時の私が直面したのは、こういう状況だった。

  • 新規事業への投資判断を求められる取締役会
  • 「成功確率は?」「根拠は?」と繰り返す役員
  • 社内調整が取れないまま進めようとする現場の現実

数字だけで語ろうとすると、必ず詰められる。「根拠は?」「成功確率は?」「失敗したらどうする?」

でも新規事業に、完璧な根拠なんてない。それが新規事業というものだ。根拠を求められるたびに「わかりません」と答えるしかない場面が来る。そこで逃げると、プロジェクトは終わる。

鷹杉の視点:「完璧な根拠を出せ」は罠だ

根拠を求める人が本当に欲しいのは、「数字」ではなく「この人は責任を取る覚悟があるか」の確認だ。私はそれに気づいてから、承認が取れるようになった。

承認を取るために有効だった方法。

そこで私がやったのは、ロジックで押し切ることではなかった。

① 熱量を先に伝える

「この事業が必要な理由」「自分がやり切るという覚悟」「失敗した時にどう責任を取るか」。

これを、データではなく言葉と熱量で伝えた。

数字が弱くても、熱量は伝わる。「この人はやり切る人間だ」という印象を持ってもらえれば、細かい数字より強い説得力になる。これは製造業の役員相手に特に効く。現場を長く経験してきた人間は、根拠の完璧さより「こいつは逃げない」という直感を信じる。

② スモールスタートに設計し直す

大事なのは、完璧な承認を求めないことだ。

「全部承認してもらう」より「動き始める許可をもらう」という発想に切り替える。

予算を全額もらえなくても、5分の1でも動ける計画に変える。期間を短縮して、まず検証だけでも進める。私が実際にやったのは、こういう切り口だった。

  • 本来6ヶ月の開発を「まず2ヶ月で技術検証だけやらせてほしい」に圧縮する
  • 投資額を段階的に設定し、撤退基準を先に提示する
  • 「失敗したら止める」という基準を明示することで、リスクを見えやすくする

これで突破口が見えてくる。完璧な計画より、動き始める設計の方が強い。

役員が教えてくれた「孤独と覚悟の共有」という視点。

あの役員は、防波堤の話をした後にこうも言っていた。

「飛び込む孤独感と覚悟は、一人で抱えるものじゃない。メンバーと共有するものだ」

0→1プロジェクトは、リーダー一人の熱量だけでは続かない。チームが同じ覚悟を持って進むことで、初めて暗闇の中でも足が動く。

この言葉の意味を、私はプロジェクトを進めながら少しずつ理解していった。リーダーが「俺についてこい」と引っ張るより、「一緒に飛び込もう」と巻き込む方が、チームは強くなる。

孤独を抱えたまま突き進もうとすると、必ずどこかで折れる。最初から「この暗闇を一緒に歩く仲間」を作っておくことが、0→1プロジェクトのリスク管理の本質だと今は思っている。

 0→1推進に必要な「3つの覚悟」まとめ
 1、暗闇を歩く覚悟:正解がない状態を正常と受け入れる
 2、熱量で動かす覚悟:ロジックより先に自分の本気を見せる
 3、孤独を共有する覚悟:一人で抱えず、チームで飛び込む

新規開発経験が転職で「圧倒的に」評価される理由。

製造業のキャリアで「新規開発・新規事業の推進経験がある」という人は、思った以上に少ない。

多くの人は、既存製品の改善や量産対応を担当している。それも重要な仕事だ。でも「0から何かを作り上げた経験」は、転職市場では全く別の価値を持つ。

なぜ0→1経験は評価されるのか。

理由は単純だ。暗闇の中で判断し続けた経験は、どんな状況でも応用できるからだ。

新しい職場、新しいチーム、新しい課題。転職先では必ず「前例のない状況」が来る。その時に、過去の0→1経験が土台になる。

面接官はそこを見ている。「この人は、地図のない場所でも動ける人か」を確認しようとしている。

完璧な計画より、踏み出す覚悟。

0→1を始める前に、完璧な計画を作ろうとしなくていい。

大事なのは、暗闇に向かって踏み出す覚悟だ。

防波堤の端に立って、真っ暗な海を見つめる。その孤独感と向き合えた人間だけが、0→1を経験できる。

そしてその経験は、キャリアの中で一生消えない武器になる。

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筆者紹介

鷹杉 タツヤ

鷹杉 タツヤ

製造業でのキャリアは25年以上。技術派遣の会社から一部上場企業/中小企業で設計・開発・新規事業開発など、開発畑で様々な収穫物を得てきたプロジェクトマネージャー。開発工程の上流から下流まで、さらには企画・マーケティングや営業販売まで、メーカーでのバリューチェーンはほぼ全てを経験している。

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